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MOTS-c:健康効果が期待できるミトコンドリアペプチド

MOTS-c(ミトコンドリア12S rRNAタイプcのオープンリーディングフレーム)は、ミトコンドリアDNAにコードされる小さなペプチドであり、近年大きな科学的関心を集めています。従来、ミトコンドリアは主にエネルギー産生を担う「細胞の発電所」と考えられてきました。しかし、新たな研究により、ミトコンドリアはシグナル伝達のハブとしても機能し、MOTS-cなどの生理活性ペプチドを介して代謝と細胞の健康状態を調節していることが明らかになっています。

わずか16個のアミノ酸からなるこのペプチドは、ミトコンドリアDNAの12S rRNA領域にコードされています。細胞質で合成されると核に移行し、代謝調節に関与する遺伝子の発現に影響を与えます。その最も重要な役割の一つはAMPKシグナル伝達経路の活性化であり、グルコースの取り込みと利用を改善し、インスリン感受性を高めます。これらの特性により、MOTS-cは2型糖尿病や肥満などの代謝疾患の治療における有望な候補となっています。

MOTS-cは代謝以外にも、細胞の抗酸化防御を強化し、フリーラジカルによるダメージを軽減することで、酸化ストレスに対する保護効果を示しています。この機能は、心臓、肝臓、神経系などの重要な臓器の健康維持に貢献します。また、研究ではMOTS-cレベルと老化の間に明確な関連性が示されており、体が加齢するにつれて、このペプチドの自然なレベルは低下します。動物実験では、MOTS-cの補給により、身体能力の向上、加齢に伴う衰えの遅延、さらには寿命の延長が見られ、MOTS-cが「アンチエイジング分子」として開発される可能性が高まっています。

さらに、MOTS-cは筋肉のエネルギー代謝と持久力を高めると考えられており、スポーツ医学やリハビリテーションの分野で大きな関心を集めています。また、神経変性疾患への潜在的な効果を示唆する研究もあり、その治療の可能性はさらに広がっています。

MOTS-cはまだ研究の初期段階ですが、ミトコンドリア生物学の理解における画期的な進歩です。ミトコンドリアに関する従来の見解に疑問を投げかけるだけでなく、代謝性疾患の治療、老化の抑制、そして健康全般の促進に向けた新たな道筋を切り開きます。さらなる研究と臨床開発が進めば、MOTS-cは未来の医療において強力なツールとなる可能性があります。


投稿日時: 2025年9月10日